個人事業主と株式会社などにおける「通称使用」の真実:登記・特商法・税務署の扱いまとめ

近年、ビジネスの場で「本名ではなくビジネスネーム(通称)」を使う起業家が増えています。しかし、登記や特定商取引法、確定申告など「公的手続き」で通称をどこまで使えるのか、誤解している人が多いのが実情です。ここでは、株式会社と個人事業主の両方の立場から、法的な扱いと現実の運用をわかりやすく整理します。
登記では「通称」不可。株式会社は本名のみ
株式会社を設立する際、代表取締役として登記する名前は「戸籍上の本名」でなければなりません。商業登記法では、登記内容は法的責任を明確にするためのものであり、印鑑証明書と照合されます。したがって、通称やビジネスネームでは登記が通りません。
ただし、登記後の運営では通称の使用は自由です。名刺・ウェブサイト・SNS上では、「代表取締役 山田太郎(ビジネスネーム:山田レン)」のように併記して問題ありません。契約書などの法的文書では、登記と同じ本名を使用する必要があります。
個人事業主の場合は「屋号+本名」で柔軟に対応可能
個人事業主は法人登記を行わないため、開業届に記載する「氏名」は本名が必須ですが、「屋号」は任意です。したがって、「屋号:レンデザイン」「氏名:山田太郎」とすれば、本名とビジネスネームの両立が可能です。
つまり、登記の有無で扱いが分かれます。
- 株式会社:本名で登記 → 通称は名刺・サイトで使用可能
- 個人事業主:本名で開業 → 屋号欄にビジネスネーム使用OK
特定商取引法における「通称」はグレーゾーンだが黙認されやすい
ネット販売やオンラインサービスを行う場合、「特定商取引法に基づく表記」で代表者名を明記する必要があります。ここでよくある誤解が、「通称で書いてもいいのでは?」というものです。
結論としては、厳密には「通称だけ」は違反にあたります。特商法第11条では「販売業者等の氏名又は名称」を記載する義務があり、これは「責任者の特定」を目的としています。したがって、個人事業主なら本名、法人なら登記上の代表取締役名が必要です。
とはいえ、実際には「屋号+通称」で運営している事業者は非常に多く、行政も実害がない限り黙認しているのが現状です。住所・電話・メールが実在し、責任者の所在が明確であれば、クレーム対応が適正に行われる限り、行政指導が入ることはほとんどありません。
ただし、トラブルが発生し、消費者が「誰が運営しているか分からない」と訴えた場合は、行政が本名表記を求めることになります。したがって、最も安全な表記は次のような形です。
販売業者:山田太郎(屋号:レンデザイン/通称:山田レン) 所在地:東京都○○区○○1-2-3
このように書けば、法的にも問題なく、ブランドイメージも守れます。
確定申告では「通称」は黙認。屋号欄で正式に使える

確定申告書や開業届では、「氏名」欄に本名を書くのが原則です。しかし、申告書には「屋号・雅号」欄があり、ここにビジネスネームを自由に記載できます。税務署はこの形を正式に認めており、本人確認とマイナンバーで特定できれば、通称併用を問題視しません。
ネット上で「ビジネスネームで確定申告した」と言っている人もいますが、実際には内部処理では本名で登録されています。職員が柔軟対応してくれた、あるいは入力時に補正されたケースが多いのです。
国税庁も明言している通り、「本人を識別できる限りにおいて、通称の使用を差し支えない」との運用が行われています。したがって、「山田太郎(屋号:山田レン)」のように書くのが最も自然で安全です。
まとめ
法的には「本名」、現実には「通称黙認」。登記・特商法・税務署という三つの側面から見ると、共通する本質は次の通りです。
- 登記:代表者名は本名のみ(通称不可)
- 特商法:本名必須だが通称併記は可、単独使用は黙認されやすい
- 確定申告:本名+屋号・通称が正式、単独通称は内部的に修正される
つまり、「本名で法的責任を明確にしつつ、通称でブランドを築く」ことが現実的な運用です。通称だけで活動するのはリスクが伴いますが、適切な併記をすれば、法令遵守とイメージの両立が可能です。
起業初期は「どこまで本名を出すか」で悩む人が多いですが、登記・特商法・税務のバランスを理解しておけば、トラブルを防ぎながら安心してビジネスネームを活用できます。


