人口1万人に満たない地方の小さな町が、ある年、日本中から注目を集めました。
宮崎県児湯郡に位置する都農町(つのちょう)です。
かつては財政破綻の危機に直面していたこの町が、「ふるさと納税」によって100億円を超える寄付を集め、全国ランキング上位にまで躍り出ました。
しかし、その成功の裏側には制度上の制約、指定取消という厳しい現実、そして再出発という重い課題が存在します。
都農町の事例は、「ふるさと納税は万能なのか」「地方自治体は何を誤解しやすいのか」を考える上で、非常に示唆に富んでいます。
財政破綻寸前だった宮崎県・都農町の現実
宮崎県児湯郡都農町は、宮崎県の東部、日向灘に面した町です。
人口は約9,500人。高齢化と人口減少が進み、地方自治体が共通して抱える課題を早くから突きつけられてきました。
税収は限られ、公共事業や福祉、教育に十分な予算を確保することが難しい状況が続いていました。
一時は「財政破綻」という言葉が現実味を帯びて語られるほど、町の将来は不透明だったのです。
この状況を大きく変えたのが、ふるさと納税制度でした。
ふるさと納税で100億円超を集めた奇跡の年

2021年、都農町はふるさと納税で約109億円という巨額の寄付を集めました。
これは全国の自治体の中でも第6位に相当する規模で、人口規模を考えれば異例中の異例です。
町の名前は一気に全国区となり、「地方創生の成功例」として紹介されることも増えました。
背景には、町の特産品である農産物や加工品、地元事業者との連携による魅力的な返礼品戦略がありました。
限られた資源を最大限に活かし、外からお金を呼び込む。その一点に集中した結果だったと言えるでしょう。
この成功によって、町の財政は一気に好転し、公共サービスの維持や将来投資への道が開かれました。
指定取消という急ブレーキが意味するもの
しかし、成功は永続しませんでした。
2022年1月、都農町はふるさと納税制度の指定自治体から除外されます。
理由は、返礼品の調達額が国の定める基準、すなわち「寄付額の3割以下」というルールを超えていたことでした。
制度開始当初は比較的緩やかだった返礼品競争は、年々過熱し、制度の健全性を守るために厳格な基準が設けられました。
都農町を含め、同様の理由で指定取消となった自治体は全国で7市町に及びます。
重要なのは、これは「違法行為」ではなく、「制度運用上の基準逸脱」である点です。
しかし一度指定を外れると、ふるさと納税を受け付けること自体ができなくなり、町の財政運営に大きな影響を及ぼしました。
指定復帰しても寄付が戻らない現実
他の6自治体の多くは、その後指定復帰を果たしています。
ただし、取消前と同水準まで寄付額を回復できた自治体は、ほとんどありません。
理由は明確です。
ふるさと納税は「一度の成功体験」がそのまま再現できる制度ではないからです。
返礼品競争は成熟期に入り、寄付者の目も厳しくなっています。
また、コロナ禍という特殊な消費環境が後押しした側面も大きく、同じ条件はもはや存在しません。
2024年、再スタートを切った都農町の課題

2024年4月、都農町は再びふるさと納税を実施できる状態に戻りました。
制度上の条件を満たし、再出発を果たした形です。
しかし、かつてのように100億円規模の寄付を集めるのは、現実的には極めて厳しいと言わざるを得ません。
市場環境は変わり、寄付者の価値観も変化しました。
「お得さ」だけでは選ばれず、「共感」「持続性」「自治体の姿勢」が問われる時代に入っています。
さらに、都農町では町長も交代し、新しい体制での町政運営が始まりました。
町民の間には、新しいリーダーシップへの期待と同時に、ふるさと納税に依存しすぎない財政運営を模索すべきだという声もあります。
ふるさと納税は万能ではないが、無視もできない
人口1万人以下の自治体にとって、自主財源を大きく増やす手段は極めて限られています。
ふるさと納税は、確かにリスクもありますが、現実的な選択肢の一つであることは間違いありません。
重要なのは、「短期的な寄付額」ではなく、「制度を前提とした中長期の町づくり」です。
返礼品の魅力だけでなく、寄付金の使途を明確にし、町の未来像を示し続けることが求められます。
都農町の歩みは、成功と失敗の両方を含んだ、非常に現実的な地方自治の姿です。
この事例を知ることは、ふるさと納税を利用する側にとっても、自治体運営を考える側にとっても、大きな判断材料となるでしょう。
まとめ
宮崎県都農町は、ふるさと納税によって一度は財政危機から脱却しました。
同時に、制度の限界と厳しさも身をもって経験しています。
ふるさと納税は「魔法の杖」ではありませんが、正しく理解し、適切に運用すれば、地方にとって強力な支えとなります。
都農町の再スタートは、地方自治のこれからを考える上で、今なお続く重要なケーススタディです。
この町がどのような形で次の一歩を踏み出すのか。その行方は、多くの地方自治体にとって他人事ではありません。


