7月1日は「童謡の日」です。童謡という言葉から、多くの人は子どもの頃に口ずさんだ懐かしい旋律や、家族と過ごした時間を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、童謡の日の由来や、童謡と唱歌・童話との違いまで正確に理解している人は意外と多くありません。
童謡は単なる「昔の子どもの歌」ではなく、日本の近代文化や教育、価値観の変化と深く結びついて生まれ、今も歌い継がれている重要な文化資産です。7月1日という記念日をきっかけに、童謡が生まれた背景と、その代表的な一曲「花」が持つ意味を、あらためて整理してみます。
7月1日が「童謡の日」とされた理由
7月1日が童謡の日とされているのは、大正7年7月1日(1918年7月1日)に、童話・童謡雑誌「赤い鳥」が創刊されたことに由来します。この「赤い鳥」は、日本の童謡運動の出発点ともいえる存在です。
それまでの子どもの歌の多くは、教育目的が前面に出た唱歌が中心でした。一方、「赤い鳥」は、子どもを一人の人格として尊重し、芸術性の高い作品を届けることを目指しました。この思想が、現在私たちがイメージする「童謡」の基盤となっています。
この創刊日にちなみ、日本童謡協会が昭和59年6月26日に「7月1日を童謡の日とする」と制定を宣言しました。つまり、童謡の日は単なる語呂合わせや商業的な記念日ではなく、日本の童謡文化の原点を記念する日なのです。
童謡と唱歌・童話の違いで混同しやすい点
童謡の日に関連して、よくある誤解の一つが「童謡と唱歌は同じもの」という認識です。しかし、この二つには明確な違いがあります。
唱歌は、明治期以降の学校教育で用いられた教育用楽曲が中心で、道徳や規範意識の育成を目的として作られました。一方、童謡は、子どもの心情や感性を大切にし、文学性・芸術性を重視して作られた作品です。
また、「童話」と混同されることもありますが、童話は物語作品であり、童謡は歌として成立するものです。「赤い鳥」は童話と童謡の両方を掲載していましたが、それぞれは異なるジャンルとして位置づけられています。
「親子で歌いつごう 日本の歌百選」とは何か
「親子で歌いつごう 日本の歌百選」は、日本の優れた歌曲を次世代に伝える目的で選定された楽曲集です。童謡だけでなく、唱歌や日本歌曲も含まれており、単なる懐古的な企画ではありません。
ここで重要なのは、「子ども向けだから簡単」「昔の歌だから価値が低い」という認識が誤りだという点です。選定基準には、歌詞の美しさ、旋律の完成度、日本語の響きなどが重視されており、文化的価値の高い作品が選ばれています。
この百選に選ばれている楽曲は、教育現場や家庭で安心して歌い継げる基準の一つともいえます。どの歌が選ばれているかを知ることで、日本の音楽文化を体系的に理解する手がかりにもなります。
日本の歌百選の一つ「花」が持つ特別な存在感
童謡を語るうえで、多くの人が真っ先に思い浮かべる楽曲の一つが「花」です。この曲は、日本の歌百選にも選ばれており、世代を超えて親しまれています。
「花」は、春の隅田川の情景を描きながら、自然の美しさと人生のはかなさを静かに重ね合わせた作品です。子どもでも口ずさめる旋律でありながら、大人になってから改めて歌うと、まったく違った情感が立ち上がってきます。

※ 隅田川5色にライトアップされた厩橋
この曲が長く歌い継がれている理由は、単に有名だからではありません。歌詞と旋律が過度に説明的にならず、聴く人それぞれの経験や感情を自然に重ねられる余白を持っている点にあります。
作詞・作曲から見える時代背景

※ 瀧廉太郎
「花」は、作詞が武島羽衣、作曲が瀧廉太郎による作品です。瀧廉太郎は日本近代音楽の礎を築いた作曲家として知られ、西洋音楽の技法を取り入れながら、日本語の美しさを損なわない旋律を追求しました。
この時代の作品には、近代化の中で揺れる日本人の感性や、西洋文化と日本文化の融合への模索が色濃く反映されています。「花」は、その象徴的な一曲といえるでしょう。
童謡を「懐かしさ」だけで終わらせないために
童謡の日に関して見落とされがちなのは、「童謡は過去のもの」という思い込みです。しかし、童謡は決して過去に閉じた文化ではありません。歌い手が変わり、聴き手が変わることで、意味や感じ方も更新され続けています。
また、著作権の扱いについても注意が必要です。古い楽曲であっても、すべてが自由に使用できるわけではありません。作詞者・作曲者の没後年数によって権利の有無が異なるため、演奏や配信、掲載の際には確認が欠かせません。
こうした点を理解せずに「昔の歌だから大丈夫」と判断してしまうと、思わぬトラブルにつながる可能性もあります。童謡は文化であると同時に、現在も法制度の中で扱われている作品群なのです。
まとめ
7月1日の「童謡の日」は、「赤い鳥」の創刊という日本の童謡文化の原点を記念する日です。童謡は単なる子どもの歌ではなく、時代背景や思想、芸術性を内包した日本文化の重要な一部です。
「親子で歌いつごう 日本の歌百選」に選ばれている「花」は、その象徴ともいえる存在であり、年齢や立場によって異なる表情を見せてくれます。童謡の日をきっかけに、歌詞や旋律の奥行きに耳を澄まし、今の自分自身の感性であらためて向き合ってみることには、大きな意味があります。</
懐かしさだけで終わらせず、正しい背景と理解をもって童謡に触れること。それこそが、童謡の日の本来の意義といえるでしょう。


