永住許可の厳格化は遅すぎる|手数料1万円だった制度を今こそ本気で見直すべき
外国人の永住許可をめぐり、政府が審査基準の厳格化を進めています。
報道されている見直し案では、永住許可の「独立の生計を営むに足りる資産又は技能」という要件について、日本人世帯の平均を上回る年収水準や、その年収で厚生年金に30年間加入した場合に相当する年金受給見込みなどを求める方向が示されています。
また、「その者の永住が日本国の利益に合すると認められること」という要件についても、これまで以上に「積極的かつ具体的に日本に利益をもたらすこと」を重視する方向で見直しが検討されています。
ただし、ここは明確に区別しておかなければなりません。年収や年金などについて報じられている具体的な基準は、現時点ですべて施行されている制度ではなく、今後のガイドライン改定などを通じて導入が検討されている「案」です。
一方で、永住許可に関する手数料については、現在の1万円から20万円へ大幅に引き上げる方向となっています。
ここで率直に疑問に感じるのは、20万円という金額よりもむしろ、「これまで永住許可がたった1万円だったのか」という点です。
永住許可は単なる行政証明ではありません。日本で長期間生活するうえで極めて大きな意味を持つ在留資格です。
それほど重要な地位を与える手続きについて、なぜこれまで1万円という水準が長期間続いてきたのでしょうか。
今回の厳格化そのものは必要な方向だと考えます。しかし同時に、法務省や出入国在留管理庁、そして法律を作る国会は、もっと早い段階から制度を真剣に見直すべきだったのではないでしょうか。
永住許可は「少し長く日本に住める制度」ではない
永住許可という言葉を見ると、単純に「日本に長期間住めるようになる制度」と考えてしまうかもしれません。
しかし、永住者という在留資格が持つ意味はそれほど軽いものではありません。
一般的な就労系の在留資格では、活動内容や在留期間などに一定の制限があります。
一方、永住者になると、在留活動や在留期間について通常の在留資格より大幅に制約が少なくなります。
つまり、日本で長期間にわたり生活基盤を形成できる非常に大きな地位を与えられるということです。
だからこそ、永住許可については「日本社会の一員として長期的に安定して生活できる人物なのか」という視点から、厳格な審査が行われるのは当然でしょう。
税金をきちんと納めているのか。
社会保険料を適正に支払っているのか。
自立した生活を今後も続けられるのか。
日本の法律や社会制度を理解し、ルールを守って生活しているのか。
永住という大きな権利を認める以上、こうした点を確認することは何ら不自然なことではありません。
永住許可の条件を厳格に定めることは、外国人を排除することとはまったく別の問題です。
永住を希望する人物に対して、国家としてどのような条件を求めるのかを明確にすることは、日本政府として当然の責任でしょう。
長期的に自立して生活できるかを見るのは当然
現在の永住許可制度でも、「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」が要件の一つとなっています。
要するに、日本国内で安定した生活を営むことができ、公共の負担にならずに生活できる見込みが求められているわけです。
それならば、その判断基準として年収や将来の年金受給見込みを一定程度確認することには十分な合理性があります。
永住は数年間だけ日本に住む制度ではありません。
20年後、30年後、さらに高齢になった後も日本国内で生活する可能性があります。
そのため、申請した時点で仕事をしている、あるいは一定の収入があるというだけではなく、将来的にも日本社会の中で自立した生活を続けられる可能性があるのかという点を見る必要があります。
もちろん、人生には病気、失業、介護などさまざまな事情があります。
単純に「年収がいくら以上なら合格、1円でも足りなければ不許可」という極端な制度にする必要はないでしょう。
しかし、「独立した生計を営む能力」を要件にするのであれば、それを判断するための客観的な基準は必要です。
曖昧な基準のまま担当者の裁量だけで判断するより、年収や年金、資産、就労状況などについて一定の明確な基準を設けた方が、制度としてはむしろ公平です。
納税や社会保険料の履行確認は徹底すべき
永住許可を考えるうえで特に重要なのが、税金や社会保険料の問題です。
日本で生活する以上、日本人であっても外国人であっても、法律上必要な税金や社会保険料を支払うことは基本的な義務です。
まして、日本で今後も長期間生活するために永住許可を求めるのであれば、その義務を適正に果たしてきたかどうかを厳しく確認するのは当然でしょう。
税金や年金、健康保険料などを適正に納めている人物と、長期間にわたって滞納を繰り返してきた人物を同じように評価する方が不公平です。
申請直前になって慌てて滞納分を支払えば問題なし、という制度でも困ります。
重要なのは、日常的に日本社会のルールを守って生活してきたかどうかです。
ここまで考えると、疑問に感じるのは、なぜこうした当たり前ともいえる部分について、2026年になって大規模な「厳格化」が話題になっているのかということです。
外国人在留者が増加しているのであれば、それに合わせて入管行政も継続的に制度を更新していくべきでした。
問題が大きくなってから慌てて制度を修正するのでは遅いのです。
永住許可の手数料が1万円だったことに驚く
今回の報道で特に驚いたのが、永住許可の手数料です。
現在、永住許可が認められた場合に支払う手数料は1万円です。
これを2026年10月から20万円へ引き上げる方針が示されています。
1万円から20万円。実に20倍です。
「いきなり20倍は高すぎる」と感じる人もいるでしょう。
しかし、逆に考える必要もあります。
そもそも、なぜこれまで永住許可という非常に重要な手続きが1万円だったのでしょうか。
運転免許証や各種行政証明のような単純な書類発行とは違います。
申請者の在留状況、収入、納税状況、社会保険料、素行、家族状況などさまざまな資料を確認し、日本で永住することが適切かどうかを行政が審査する手続きです。
それだけの行政事務を行い、最終的に永住という重要な地位を与えるにもかかわらず、これまで1万円という設定だったことについては、もっと検証されてよいはずです。
20万円が絶対的に正しい金額なのかについては別途議論が必要でしょう。個人的には200万円くらいが妥当だと思います。
しかし、少なくとも「1万円という金額を長期間ほとんど疑問視せず放置してきたこと」は、行政として適切だったのかと感じます。
法務省と入管庁はもっと早く動けなかったのか
今回、政府が永住許可制度を厳格化しようとしていること自体は評価できます。
しかし、それと同時に強く問いたいのが、「なぜもっと早く制度を見直さなかったのか」という点です。
日本に住む外国人は長期的に増加してきました。
外国人労働者を積極的に受け入れ、技能実習、特定技能、高度人材などさまざまな在留制度を拡大してきたのであれば、その先にある永住制度についても当然並行して整備すべきだったはずです。
外国人を受け入れる制度だけを拡大して、その後の在留管理や永住制度の整備が追いつかないのであれば、制度設計そのものに問題があります。
行政は問題が起こってから対処するだけではいけません。
外国人在留者が増えることが分かっているなら、10年後、20年後を見据えて制度を先回りして作るのが行政の仕事です。
法務省や出入国在留管理庁には、制度を運用するだけではなく、現実に合わせて制度を継続的に修正する責任があります。
国会議員も「問題になってから動く」では遅い
これは法務省や入管庁だけの責任ではありません。
法律を作り、行政を監視する国会にも当然責任があります。
永住許可制度が現在の日本社会に適しているのか。
納税や社会保険料の確認は十分なのか。
必要な収入水準は適切なのか。
永住許可の手数料は行政コストや資格の重要性に見合っているのか。
こうした問題について継続的に検証し、必要なら法律を変えていくことこそ国会議員の仕事でしょう。
外国人政策は、単純な「外国人賛成」「外国人反対」という話ではありません。
日本で働く外国人が必要だというのであれば、受け入れ政策と同時に在留管理、永住、帰化、税金、年金、健康保険などを含めた制度全体を整備しなければならないのです。
外国人政策だけでなく、税制や社会保障、企業政策など、私たちの暮らしに直結する社会・経済の動きについては、社会・経済ニュースを読み解く|企業・政治・国際情勢から暮らしへの影響まででもまとめています。
入口だけ広げ、管理制度を後回しにする政策では、最終的に国民の不満や不信感が高まります。
それは、日本で真面目に働き、税金や社会保険料を納めて生活している外国人にとっても不利益です。
一部の問題事例によって、適正に生活している外国人まで同じ目で見られてしまうからです。
だからこそ、守るべきルールを明確化し、守っている人物と守っていない人物をきちんと区別する制度が必要なのです。
厳格化は「検討」で終わらせず前倒ししてでも進めるべき
政府は永住許可について、独立生計要件や国益要件を含めた見直しを進めています。
方向性としては理解できます。
しかし、ここから何か月も何年も「検討中」「調整中」「今後議論します」という状態が続くのであれば意味がありません。
必要な厳格化であると政府自身が判断しているのであれば、可能なものについては前倒ししてでも制度整備を進めるべきです。
もちろん、行政が何でも自由に決めてよいという意味ではありません。
特に、報道されているように新しい基準を過去の申請にさかのぼって適用するのであれば、法的な問題や申請者の予測可能性について慎重な検討が必要です。
厳格化することと、恣意的な行政運用を認めることはまったく別の話です。
必要であれば国会で法律を改正し、必要であれば政令や省令を改正し、必要であればガイドラインを明確化する。
正式な手続きを踏んだうえで、厳格で、透明で、公平な制度を早急に完成させるべきです。
日本に利益をもたらす人物を優先する考え方も必要
今回の見直し案では、「日本国の利益に合すると認められること」という要件についても、より具体的に評価する方向が示されています。
これについても、永住制度の性質を考えれば不自然ではありません。
日本で仕事をし、納税し、社会保険料を支払い、地域社会の中で生活し、長期間にわたって日本社会を支えている人物であれば、それは日本にとってプラスです。
高度な技能を持ち、日本企業で重要な仕事をしている人材もいるでしょう。
地域社会や産業を支える仕事を長年続けている外国人もいます。
そうした人物について、永住許可の審査で積極的に評価すること自体は合理的です。
反対に、税金や社会保険料を繰り返し滞納し、日本社会のルールを守らない人物についてまで、同じように永住を認める必要があるのかという疑問は当然出てきます。
永住許可は「日本に長く住んでいれば自動的にもらえる資格」ではないという原則を、もっと明確にすべきです。
まとめ
永住許可は、日本で長期間生活する外国人にとって極めて重要な制度です。
だからこそ、簡単に与えてよいものでもなければ、曖昧な基準のまま運用してよいものでもありません。
現在1万円の永住許可手数料を20万円へ引き上げる方針については、その金額が本当に妥当なのかという検証は必要でしょう。(個人的にはもっと金額は上げるべきだと思うけど)
しかし、それ以前に「なぜ今まで1万円だったのか」という疑問は残ります。
また、年収、年金、納税、社会保険、資産、素行、日本社会への貢献などをどこまで永住許可の判断材料とするのかについても、可能な限り具体的な基準を示すべきです。
日本で永住するという大きな地位を与える以上、「長期的に自立して生活できるのか」「日本社会の義務をきちんと果たしているのか」を厳しく確認することは当然です。
そして何より問題なのは、外国人在留者がここまで増え、外国人政策が大きな社会問題になってから、ようやく慌てて制度を見直しているように見えることです。
法務省、出入国在留管理庁、そして国会議員には、もっと真剣に仕事をしてもらいたいところです。
外国人受け入れを拡大するなら、それに見合った管理制度も同時に整備する。
問題が起きてから対策を考えるのではなく、問題が大きくなる前に制度を作る。
それが本来の行政と政治の役割でしょう。
「検討します」「見直します」と言って時間を費やしている場合ではありません。必要な法的手続きをきちんと踏みながら、前倒しできるものは前倒しし、永住許可制度の厳格化を早急に進めるべきです。


