中国・ロシア艦艇が日本EEZ内で実弾演習|領海侵犯との違いを解説

社会・経済

小泉防衛大臣は、訪問先のイギリスで行ったスピーチの中で、中国ロシア海軍艦艇日本周辺で共同航行作戦を実施し、直前の週末には日本のEEZ排他的経済水域の内側で実弾演習を行ったと明らかにしました。

防衛省によると、共同航行には中国とロシアの艦艇が参加していましたが、実際に実弾射撃を行ったことが確認されたのは中国艦艇だけです。また、防衛省が日本のEEZ内における中露艦艇の実弾演習を確認し、公表したのは、今回が初めてだと報じられています。

このニュースを見て、「日本のEEZ内ということは、中国とロシアの軍艦が日本領内に入って実弾を撃ったのか」と感じた人も多いのではないでしょうか。

しかし、結論からいえば、日本のEEZ内に入ったことと、日本の領海に侵入したことは同じではありません。今回の出来事を正しく理解するには、「領海」と「EEZ」の違いを押さえる必要があります。

中露艦艇が日本EEZ内で活動、中国艦艇が実弾射撃した意味とは

今回、中国とロシアの海軍艦艇が活動していたとされるのは、日本の「EEZ=排他的経済水域」です。

「日本のEEZ」という呼び方から、日本が完全に支配する海域のように思えます。しかし、EEZは日本の領土や領海そのものではありません。

日本が天然資源の利用や海洋調査などについて、特別な権利を持っている海域というのが、より正確な理解です。

日本のEEZは日本領内なのか

海には、陸地からの距離や国際法上の性質によって、いくつかの区分があります。

日本の海岸

├─ 領海:基線から原則12海里(約22km)
│ → 日本の主権が及ぶ。国土に近い扱い

├─ EEZ:基線から最大200海里(約370km)
│ → 日本領ではないが、資源開発などで日本が優先的権利を持つ

└─ 公海

領海は日本の主権が及ぶ海域

日本の海岸や島の基準となる線から、原則として12海里約22キロメートルまでの海域が「領海」です。

領海には、原則として沿岸国の主権が及びます。海面だけではなく、その上空や海底、海底の地下についても日本の主権が及ぶため、領海は海の上における日本領のような性格を持つ海域です。

外国船には一定の条件の下で「無害通航」が認められていますが、日本の安全や秩序を害する行動は許されません。

外国の軍艦が日本の領海に入り、そこで日本の同意もなく実弾射撃を行ったのであれば、極めて重大な主権侵害として扱われる可能性があります。

EEZは領海の外側に設定される

EEZは、領海のさらに外側に設定される海域です。沿岸国は、基準となる線から最大200海里、約370キロメートルまでEEZを設定できます。

外務省も、国連海洋法条約によって、従来の領海公海という区分に加えて、排他的経済水域という新たな海域が設けられたと説明しています。

EEZで日本に認められているのは、海域全体を自国領として支配する権利ではありません。

魚介類などの水産資源、石油や天然ガス、海底鉱物といった天然資源を探査、開発、保存、管理する権利があります。また、海上風力発電などによるエネルギー生産、人工島や海洋施設の設置、海洋科学調査、海洋環境の保護などについても、日本は一定の管轄権を持っています。

EEZの「排他的」とは、外国船をすべて排除できるという意味ではなく、主として経済的な権利を沿岸国が優先的に持つという意味です。

中国とロシアの艦艇は日本領海に侵入したのか

今回の報道が「日本のEEZ内」と表現している以上、現時点で確認されている範囲では、中国とロシアの艦艇が日本の領海に侵入したという意味ではありません。

外国の船舶は、日本のEEZ内であっても、原則として航行できます。商船や漁船だけでなく、外国の軍艦も航行すること自体が直ちに禁止されているわけではありません。

国連海洋法条約では、EEZ内で沿岸国に資源などに関する主権的権利を認める一方、他国にも航行や上空飛行などの自由を認めています。つまり、EEZは日本の権利だけが全面的に優先される海域ではなく、日本と他国の権利が併存する特殊な海域です。

そのため、「中国艦艇が日本のEEZに入った」という事実だけで、領海侵犯や国際法違反だと断定することはできません。

報道で「EEZ内に侵入」という表現が使われることもありますが、法的には誤解を招きやすい表現です。外国船にはEEZを航行する自由があるため、単に入っただけなら、本来は「侵入」よりも「進入」や「航行」と表現したほうが実態に近いといえます。

EEZ内で実弾射撃を行うことは違法なのか

外国艦艇が日本のEEZを航行できるとしても、「実弾を撃つことまで自由なのか」という疑問が残ります。

この問題については、国連海洋法条約に、外国のEEZ内で行うすべての軍事演習を一律に禁止する明確な規定はありません。

そのため、外国のEEZ内における軍事活動をどこまで認めるかについては、各国の解釈が完全には一致していません。

航行の自由には、軍艦による通常の航行や軍事的利用も含まれると広く解釈する国がある一方、武器や爆発物を使用する大規模な軍事演習については、沿岸国の同意が必要だと主張する国もあります。

したがって、日本のEEZ内で中国艦艇が実弾射撃を行ったという事実だけで、直ちに国際法違反だと断定することは困難です。

ただし、「禁止する明確な規定がない」ということは、何をしても構わないという意味ではありません。

国連海洋法条約上、EEZを利用する国は、沿岸国の権利や義務に十分配慮しなければなりません。反対に、沿岸国も他国の航行などの権利に配慮する必要があります。

実弾射撃によって日本の漁船や商船、航空機、海底設備、天然資源、海洋環境などに具体的な危険や損害が生じる場合には、別の法的問題が発生する可能性があります。

日本領内ではないのに、なぜ重大なのか

今回の実弾射撃が領海侵犯ではないからといって、「日本とは関係のない場所で訓練していただけ」と片づけることもできません。

法的に日本領ではないことと、安全保障上の脅威が小さいことは、まったく別の問題だからです。

日本に近い海域で実弾を使用した

日本のEEZは、領海の外側とはいえ、日本の島や海岸から最大約370キロメートル以内に広がる海域です。

実際に演習が行われた地点が日本の陸地からどれほど離れていたのか、どの方向に何を射撃したのかなど、詳細な位置や訓練内容によって脅威の程度は変わります。

しかし、日本が経済的権利を持ち、漁船や商船が活動する可能性のある海域で外国軍が実弾を使用したことは、決して軽い出来事ではありません。

中国とロシアが共同で行動している

今回注目されるのは、中国艦艇による実弾射撃だけではありません。

中国とロシアの海軍艦艇が日本周辺で共同航行作戦を行っていたという点にも、大きな意味があります。

中国とロシアが軍事的な連携を示しながら日本周辺で行動すれば、日本側は二つの国の艦艇や航空機を同時に監視し、警戒しなければなりません。

両国が共同で行動すること自体が、日本の防衛体制や自衛隊の対応能力に負担をかける圧力になります。

今回、実弾射撃を行ったのが中国艦艇だけだったとしても、ロシア艦艇が同じ作戦行動に参加していたのであれば、中露両国が連携して日本周辺で軍事的な存在感を示したことに変わりはありません。

日本側の対応を確認する狙いも考えられる

外国軍が他国の周辺で演習を行う目的は、射撃や航行技術を訓練することだけではありません。

相手国がどの段階で艦艇や航空機を派遣するのか、どのような監視活動を行うのか、政府がどの程度の表現で公表するのかなど、相手側の反応を把握する機会にもなります。

今回の行動についても、中国とロシアが日本の対応を試したと断定できる情報はありません。しかし、安全保障の観点では、日本側の警戒監視能力や反応を測る意図がなかったかという視点も必要です。

こうした軍事行動の意図を読み解くには、艦艇を追跡するだけでなく、各国の動向を継続的に収集・分析する情報体制も欠かせません。日本の情報機関や防諜体制の課題については、国家情報局とスパイ防止法をセットで整備すべき理由で考察しています。

事前通報や安全確保も重要な問題になる

海上で実弾射撃を行えば、周辺を航行する船舶や上空を飛行する航空機に危険が及ぶ可能性があります。

そのため、通常は航行警報や航空情報などを通じて、訓練を行う日時や海域を周知し、船舶や航空機が危険区域に入らないようにします。

今回の演習について、どの程度の事前通報が行われていたのか、日本側にいつ、どのような情報が伝えられていたのかは、ニュースの第一報だけでは明らかではありません。

仮に必要な安全情報が十分に示されないまま実弾射撃が行われていたのであれば、周辺の民間船舶や航空機にとって重大な危険となります。

2025年には、中国海軍がオーストラリアとニュージーランドに近いタスマン海で実弾射撃訓練を行い、事前の情報が不十分だったとして民間航空機が航路変更を迫られ、両国が懸念を示した事例もありました。

実弾演習の法的評価だけでなく、事前通報、安全区域の設定、民間交通への配慮が十分だったかも、今回の出来事を判断する重要な材料になります。

「領海侵犯ではないから問題ない」では済まされない

今回のニュースについては、二つの極端な受け止め方を避けなければなりません。

一つは、「EEZ内なのだから、日本領内に中国とロシアが侵入して攻撃を始めた」という過剰な解釈です。

EEZは日本の領海ではないため、今回確認された内容だけから、日本の領土や領海に対する直接的な軍事攻撃だと判断することはできません。

もう一つは、「領海ではないのだから、何の問題もない」という過小評価です。

中国とロシアの艦艇が日本周辺で共同航行し、日本が資源管理などの権利を持つEEZ内で中国艦艇が実弾を使用したことは、日本の安全保障環境が一段と厳しくなっていることを示しています。

中国やロシアの軍事行動を含め、政治・国際情勢が日本の暮らしや安全保障に与える影響については、社会・経済ニュースを読み解く|企業・政治・国際情勢から暮らしへの影響まででも詳しく整理しています。

領海侵犯ではないが、明確な軍事的示威行動であり、日本が継続的に警戒しなければならない出来事と考えるのが、現時点では最も冷静で正確な受け止め方でしょう。

まとめ

日本のEEZ内で中国とロシアの艦艇が活動し、中国艦艇が実弾射撃を行ったという今回のニュースは、非常に緊張感のある内容です。

ただし、日本のEEZは日本の領海や領土ではありません。外国の艦艇がEEZ内に入っただけで、直ちに領海侵犯や主権侵害になるわけではありません。

日本がEEZ内で持っているのは、主として天然資源の探査、開発、保存、管理や、海洋調査、環境保護などに関する権利です。外国船には航行の自由があり、軍艦の航行も原則として認められています。

また、外国のEEZ内における軍事演習や実弾射撃については、国連海洋法条約で一律に禁止されているわけではなく、各国の法的解釈にも違いがあります。

一方で、実弾射撃によって日本の船舶、航空機、漁業、海洋環境などに危険を生じさせてはならず、沿岸国である日本の権利や安全に十分配慮する必要があります。

今回の出来事は「中国とロシアが日本領内に侵入して実弾を撃った」という事態ではありません。しかし、日本周辺で中露両国が連携し、日本のEEZ内で実際に武器を使用したという点で、強い警戒を要する軍事行動です。

「EEZ内」と「領海内」の違いを理解したうえで、必要以上に恐怖をあおることも、反対に問題を軽視することもなく、今後公表される演習地点、使用した武器、事前通報の有無、日本政府の対応などを注視する必要があります。

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