東京のツキノワグマはどこにいる?推定378頭と出没地域を解説

社会・経済

「東京にクマがいる」と聞いても、奥多摩の深い山の中だけの話だと思っている人は多いかもしれません。しかし現在、ツキノワグマの目撃範囲は、奥多摩町や檜原村だけでなく、青梅市、あきる野市、日の出町、さらには八王子市の住宅地に近い場所まで広がっています。

東京都が約20年ぶりとなる狩猟解禁へ動き始めた背景には、単純な個体数の増加だけでなく、人間とクマの生活圏が接近している現実があります。

東京都にツキノワグマ最大378頭|目撃地域拡大と狩猟解禁の課題

東京都内に生息するツキノワグマが増加傾向にあり、推定個体数の上限が378頭に達することが明らかになりました。これを受け、東京都は来年度からツキノワグマの狩猟を限定的に解禁する方針を示しています。

しかし、クマを安全に捕獲できるハンターの不足や、射撃技術を維持するための射撃場が東京都内にないなど、狩猟を解禁するだけでは解決できない課題も浮かび上がっています。

ツキノワグマはどれほど凶暴なのか

ツキノワグマは、常に人間を襲おうとしている凶暴な動物ではありません。基本的には臆病で、人の気配を感じると自ら離れていくことが多く、人間を食べる目的で襲うケースもほとんどないとされています。

ただし、突然近距離で鉢合わせした場合、逃げ道をふさがれた場合、子グマを守ろうとする母グマに遭遇した場合には、身を守るために攻撃してくる可能性があります。特に子グマの近くには母グマがいる可能性が高く、かわいいからと近づく行為は極めて危険です。

成獣は体重70キロ前後に達し、100キロを超える個体もいます。鋭い爪を持ち、木登りや泳ぎも得意で、走る速度は時速40キロほどに達するとされています。人間が走って逃げ切ることは困難であり、一度攻撃に転じれば大けがや死亡事故につながり得る動物であることに変わりはありません。

種類は異なりますが、子グマを連れたクマとの遭遇がどれほど危険なのかについては、ヒグマ遭遇の恐怖|子グマ連れの危険性と時速60kmの現実でも詳しく解説しています。

檜原都民の森でクマ3頭と遭遇

2026年7月7日午前9時30分ごろ、東京都檜原村の「檜原都民の森」で、単独で登山していた男性がツキノワグマ3頭と遭遇しました。

現場は鞘口峠から約100メートル西側の登山道で、遭遇したのは成獣1頭と幼獣2頭でした。成獣が男性に向かってきたため、男性は追い払おうとしましたが、バランスを崩して約10メートル滑落し、顔や足を負傷しました。

クマに直接かまれたり引っかかれたりした被害ではありませんでしたが、クマとの遭遇が原因となった重大な事故です。特に今回は子グマを連れた母グマだった可能性が高く、危険性の高い状況だったと考えられます。

事故を受け、檜原都民の森では7月31日まで登山道を閉鎖し、定期イベントも中止しました。駐車場や売店などは利用できるものの、レストランは平日の営業を取りやめています。

登山客やツーリング客が減少し、周辺の飲食店や観光施設にも影響が出ています。クマ問題は人身被害の危険だけでなく、山間地域の観光や地域経済にも直接的な打撃を与える問題になっています。

「378頭」は確定数ではなく推定の上限

今回の報道では「東京都内にツキノワグマが378頭いる」と伝えられていますが、正確には、東京都が実施した調査による推定個体数は120頭から378頭、平均推定値は235頭です。

東京都は、クマの体毛を採取するヘアトラップを設置し、採取された体毛をDNA解析することで個体を識別し、行動範囲や生息密度を調べました。その結果、都内の森林における生息密度は、1平方キロメートル当たり約0.47頭と推定されています。

過去の調査とは方法が異なるため、以前の数字と単純に比較することはできません。それでも、専門家や市町村への聞き取り、目撃情報の増加などを踏まえ、東京都は都内のツキノワグマは増加傾向にあると判断しています。

東京都と隣接する山梨県側を含む周辺地域では、2026年に入ってからクマの目撃や足跡、ふん、爪痕などの情報が80件以上寄せられています。

東京都内でクマが目撃されてきた地域

東京都がツキノワグマの生息地域として扱っているのは、奥多摩町、檜原村、青梅市、あきる野市、日の出町、八王子市の6市町村です。

奥多摩町では、日原、海沢、氷川、水根、峰谷、小河内ダム周辺などで目撃や痕跡情報が確認されてきました。山梨県の丹波山村や小菅村、埼玉県境にも接する、東京都内で最も本格的なクマの生息地域です。

檜原村では、数馬、三頭山、都民の森、人里、藤倉、南郷、浅間嶺周辺などで情報が出ています。今回の事故が起きた都民の森も、以前からクマが生息する山岳地帯の中にあります。

青梅市では、成木、御岳山、黒沢、小曾木、富岡、柚木町、二俣尾などが主な出没地域です。奥多摩に近い山間部だけでなく、人家や生活道路に比較的近い場所でも注意が必要になっています。

あきる野市では、養沢、乙津、戸倉、五日市、三内、深沢、伊奈などに加え、草花の番神山へ続く階段付近や、小中野の西秋川橋付近でも目撃情報が出ています。これらは深い山中だけではなく、民家や道路に近い場所です。

日の出町では、大久野や日の出山周辺、白岩山から梵天山にかけての山林などで情報が確認されています。町では柿や栗などの果実、生ごみがクマを住宅地へ引き寄せる可能性があるとして、早めの収穫や適切なごみ出しを呼び掛けています。

八王子市では、高尾山、陣馬山、小仏峠、上恩方町、元八王子町、八王子城跡周辺などで目撃や痕跡情報が出ています。

2026年4月には元八王子町二丁目で体長1メートルを超えるとみられる個体が撮影され、5月には上恩方町で成獣幼獣が確認されました。さらに、八王子城跡の御主殿の滝付近でもクマらしき動物が目撃されています。

クマの生息範囲は東京の東側へ広がっている

これまで東京都のクマ問題は、山梨県、埼玉県、神奈川県との県境に近い奥多摩や檜原の問題という印象が強くありました。

しかし現在は、奥多摩町や檜原村から、青梅市、日の出町、あきる野市、八王子市へと、目撃範囲が東京都の東側へ広がっているとみられています。

もちろん、現時点で新宿区や世田谷区など、東京都心や23区にツキノワグマが定着しているという意味ではありません。問題となっているのは、西多摩や南多摩にある山林と住宅地の境界部分です。

山林の近くに住宅、学校、道路、公園、河川敷、観光施設が存在する東京では、クマが山から少し移動するだけで人間の生活圏に入ってしまいます。「山に入らなければ安全」とは言い切れない地域が増えつつあることが、今回の問題の深刻な点です。

約20年ぶりの狩猟解禁とハンター不足

東京都ではツキノワグマを保護するため、2008年4月から八王子市、青梅市、あきる野市、日の出町、檜原村、奥多摩町で狩猟による捕獲を禁止してきました。

しかし、生息数や目撃情報の増加を受け、東京都は2027年度から狩猟を限定的に解禁する方針を示しています。およそ20年ぶりとなる大きな方針転換です。

ただし、狩猟を解禁すればすぐにクマを管理できるわけではありません。山中を移動するクマを安全かつ確実に捕獲するには、クマの習性や地形を理解し、高い射撃技術を持ったハンターが必要です。

クマ猟では、木々の間を移動する個体を正確に狙い、周囲の人や住宅へ弾が飛ばないようにしなければなりません。捕獲に失敗して負傷させれば、クマが興奮して周囲へ向かう危険もあります。

ところが、東京都内にはライフル銃を使用できる射撃場がありません。関東近郊にもライフル射撃場は各県に1、2カ所程度しかなく、ハンターが継続的に練習できる環境が不足しています。

単純に狩猟免許を持つ人を増やすだけでは不十分です。実戦に対応できる技術の継承、射撃場の確保、猟友会と警察、自治体の連携、緊急時の指揮系統など、人材と設備を一体で整備する必要があります。

まとめ

東京都内ツキノワグマは、120頭から378頭、平均235頭程度が生息していると推定され、個体数は増加傾向にあるとみられています。

目撃地域は、奥多摩町や檜原村といった県境の山岳地帯だけではありません。青梅市、あきる野市、日の出町、八王子市へと広がり、住宅や道路、観光施設に近い場所でも確認されるようになりました。

東京都が約20年ぶりに狩猟解禁へ動くことは、被害防止のための一つの手段です。しかし、ハンター不足や射撃場不足を放置したままでは、持続的なクマ対策にはなりません

クマを必要以上に恐れるだけでも、反対に「東京だから大丈夫」と軽視するだけでも不十分です。生息状況を正確に把握し、人間の生活圏へ近づけない対策と、危険な個体へ迅速に対応できる体制を同時に整えることが求められています。

野生動物による被害や行政の対応など、暮らしに影響する社会問題については、社会・経済ニュースを読み解く|企業・政治・国際情勢から暮らしへの影響まででもまとめています。

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